明確なプロンプトがより良いアーキテクチャ、整ったデータモデル、保守しやすいコードをもたらす仕組みを解説。実践的な手法、例、チェックリスト付き。

「プロンプトの明確さ」とは、競合する解釈の余地をできるだけ残さない形で要求を伝えることです。プロダクトの観点では、明確な成果、ユーザー、制約、成功指標の提示にあたり、エンジニアリングの観点では入力・出力・データルール・エラー挙動・非機能要件(性能、セキュリティ、コンプライアンス)などが明文化された要件になります。
プロンプトは単にAIやチームに渡すテキストではありません。それはビルド全体の源です:
プロンプトが明確なら、下流の成果物は整合しやすくなります:「何を意味していたのか」の議論が減り、実装途中の手戻りやエッジケースの驚きも減ります。
曖昧なプロンプトは人(やAI)に前提を埋めさせますが、その前提は役割ごとに一致するとは限りません。ある人は「高速」をサブ秒の応答と想定し、別の人は週次レポート向けの十分な速さと考えるかもしれません。「顧客」にトライアルユーザーを含めると考える人もいれば除外する人もいます。
そのミスマッチは再作業を生みます:実装後に設計が修正され、データモデルがマイグレーションを必要とし、APIに破壊的変更が入り、テストが実際の受け入れ基準を捉えられなくなります。
明確なプロンプトは、クリーンなアーキテクチャ、正しいデータモデル、保守しやすいコードの可能性を大幅に高めますが、保証はしません。レビュー、トレードオフの検討、反復は依然必要です。違いは、明確さが議論を具体化し(そして技術的負債になる前に)安く解決できるようにする点です。
プロンプトが曖昧だと、チーム(人間やAI)は前提で穴を埋め、それらの前提がコンポーネント、サービス境界、データフローとして固定化されます。多くの場合、誰も決定をしたとは気づかないうちに進んでしまいます。
プロンプトが「誰が何を所有するか」を明示しないと、アーキテクチャは「とりあえず動くもの」に流れがちです。単一画面や緊急統合のためだけに特製のサービスが作られ、安定した責任モデルが欠けることがあります。
たとえば「サブスクリプションを追加して」とだけ書くと、請求、権利管理、顧客ステータスがひとつの雑多なモジュールに混ざり、後で新機能が追加されるたびにそのモジュールに触らざるを得なくなります。境界はドメインを反映しなくなります。
アーキテクチャは経路依存的です。一度境界を決めると、同時に次も決まります:
元のプロンプトが「返金をサポートする必要がある」「アカウントに複数のプランが紐づく」「日割り計算のルールがある」などの制約を明示していないと、伸縮できない簡略化モデルを作ってしまう可能性があります。後で直すときはマイグレーション、契約変更、統合の再検証が発生します。
一つ一つの明確化が設計の可能性の木を収束させます。それは良いことです:『たぶんこうかも』の選択肢が減るほど、偶発的なアーキテクチャが減ります。
精緻なプロンプトは実装を楽にするだけでなく、トレードオフを可視化します。要件が明示されれば、チームは境界を意図的に選べ(そして理由を文書化でき)、最初にコンパイルした解釈に引きずられることがなくなります。
プロンプトの曖昧さは早く出ます:
明確なプロンプトがあれば、完全とは言えないまでも、システム構造が実際の問題を反映して拡張可能に保たれる確率はかなり上がります。
明確なプロンプトは単に「答えを得る」ことを助けるだけでなく、システムが何に責任を持つかを宣言させます。これがクリーンなアーキテクチャと、どこに属するか決められない機能の寄せ集めとの違いです。
プロンプトに「ユーザーが30秒以内に請求書をPDFでエクスポートできる」といった目標があれば、すぐに専用の責任領域(PDF生成、ジョブトラッキング、保存、通知)が想起されます。一方で「v1ではリアルタイム協調はしない」という非目標はWebSocketや共有ロック、競合解決を早期に導入するのを防ぎます。
目標が測定可能で非目標が明示されていれば、次のような線引きがよりシャープになります:
良いプロンプトはアクター(顧客、管理者、サポート、自動スケジューラ)とそれらが起こすコアワークフローを特定します。ワークフローは以下のコンポーネントに対応します:
プロンプトはしばしばアーキテクチャを左右する「全体にかかる」要件を見落とします:認証/認可、監査、レート制限、冪等性、リトライ/タイムアウト、PIIの扱い、可観測性(ログ/メトリクス/トレース)。指定がないと実装が一貫性を欠きます。
データモデルは多くの場合、SQLが書かれる前に既に壊れ始めています——プロンプトが「明白に見える名詞」を曖昧に使うときに。customer、account、userのような語は現実世界で複数の意味を持ち、それぞれが異なるスキーマを生みます。
プロンプトに「顧客とそのアカウントを保存する」とあれば、すぐに次のような疑問が出ます:
定義がないとチームはnullable列や何でも放り込むtype/notes/metadataのような汎用フィールドで対処し、それらが徐々に“何でも入る場所”になります。
プロンプトが名詞を明確なエンティティとルールに変換すると、例えば:「Customerは組織。Userは組織に属するログイン。Accountは組織ごとの請求アカウント」であれば、次の設計が自信を持ってできます:
customer_id と user_id は互換ではないプロンプトの明確さは作成・更新・無効化・削除・保持のルールも含めるべきです。「顧客を削除」とはハードデリート、ソフトデリート、法的保持でアクセス制限を伴うものかを示してください。これを先に決めると外部キー切れ、孤立データ、不一致のレポートを避けられます。
同じ概念には常に同じ名前を使ってください(例:常にcustomer_idを使い、時にorg_idにするのは避ける)。複数の概念を1列に押し込むより、billing_statusとaccount_statusを別々にモデル化する方が望ましいです。
データモデルは事前に提供する詳細に依存します。「顧客と注文を保存して」とだけ書くと、デモでは動くが重複・インポート・不完全レコードで破綻するスキーマが出来上がりがちです。
エンティティを明示し、各エンティティの識別方法を定義してください。
状態が未指定だとモデルは壊れやすくなります。明確にしてください:
何が必須で、何が欠けていてよいのかを明記してください。
例:
早めに指定しておくと隠れた不整合を避けられます。
現実世界は汚いので取り扱いを明確にしてください:
API契約は、プロンプトの明確さを最も早く実感できる箇所の一つです。要件が明確ならAPIは誤用されにくく、バージョン管理が容易で、破壊的変更の発生確率が下がります。
「注文を更新するエンドポイントを追加して」のような曖昧なプロンプトは互換性のない解釈を誘発します(部分更新か全体更新か、フィールド名やデフォルト値、同期/非同期の違い)。明確な契約要件は早期に判断を強制します:
PUT(置換)か PATCH(部分更新)か「良いエラー」を定義してください。最低限指定すること:
ここが曖昧だとクライアントバグや性能問題を招きます。ルールを明確に:
具体的なリクエスト/レスポンス例と制約(最小/最大長、許可値、日付フォーマット)を含めてください。数例は長文の説明より誤解を防ぎます。
曖昧なプロンプトは「間違った答え」を生むだけでなく、コードパス、DBフィールド、APIレスポンスに散在する隠れた前提を生みます。その結果、ソフトウェアは作成者が想定した前提下でしか動かなくなり、実運用で使われはじめると破綻します。
プロンプトがルールを定義しないと(例:「返金をサポート」だがルールは無し)、各サービスが別々の解釈をします:あるサービスは返金を逆転と解釈、別のサービスは別取引と扱い、別のサービスは部分返金を制限なく許す……。
明確なプロンプトは不変条件を示します(「返金は30日以内のみ」「部分返金を許可」「デジタル商品の在庫は復元しない」)。これがシステム全体での一貫した振る舞いを生みます。
保守しやすいシステムは推論しやすいものです。プロンプトの明確さは:
AI支援開発を使う場合も、鮮明な要件はモデルに一貫した実装を生成させやすくします。
保守性には運用も含まれます。プロンプトには可観測性の期待を書いておくべきです:何をログするか(しないか)、どのメトリクスが重要か(エラー率、レイテンシ、リトライ)、障害をどう通知するか。これがないと顧客が問題を報告するまで発見されないことになります。
曖昧さは低い凝集度と高い結合度として現れます:無関係な責任が一つに詰め込まれ、あらゆる箇所に触る“ヘルパー”モジュールが存在し、呼び出し元ごとに挙動が異なる。明確なプロンプトは凝集したコンポーネント、狭いインターフェース、一貫した結果を促し、将来の変更コストを下げます。実践的なチェック方法は /blog/review-workflow-catch-gaps-before-building を参照してください。
曖昧なプロンプトは曖昧な結果を生むだけでなく、設計を“汎用CRUD”のデフォルトへ押しやります。より明確なプロンプトは境界、データ所有権、DBにおける必須条件を早期に決めさせます。
“Design a simple system to manage items. Users can create, update, and share items. It should be fast and scalable, with a clean API. Keep history of changes.”
構築者(人間やAI)が信頼して推測できないこと:
“Design a REST API for managing generic items with these rules: items have
title(required, max 120),description(optional),status(draft|active|archived),tags(0–10). Each item belongs to exactly one owner (user). Sharing is per-item access for specific users with rolesviewer|editor; no public links. Every change must be auditable: store who changed what and when, and allow retrieving the last 50 changes per item. Non-functional: 95th percentile API latency \u003c 200ms for reads; write throughput is low. Provide data model entities and endpoints; include error cases and permissions.”
この時点でアーキテクチャとスキーマの選択は変わります:
items、item_shares(ロール付きの多対多)、item_audit_events(追記専用)。statusは列挙型に、タグは最大10個を守るため結合テーブルに移す可能性が高いです。| 曖昧な表現 | 明確化 |
|---|---|
| “Share items” | “特定ユーザーと共有;roles は viewer/editor;公開リンクなし” |
| “Keep history” | “アクター、タイムスタンプ、変更フィールドを含む監査イベントを保存;直近50件を取得可能にする” |
| “Fast and scalable” | “p95 読み取りレイテンシ \u003c 200ms;書き込みは低スループット;主な負荷を定義する” |
| “Clean API” | “エンドポイント一覧+リクエスト/レスポンス形+権限エラー” |
明確なプロンプトは長い必要はありませんが、構造化されている必要があります。目的は設計とデータモデリングの判断が『当然』になるだけの文脈を提供することです。
1) Goal
- What are we building, and why now?
- Success looks like: <measurable outcome>
2) Users & roles
- Primary users:
- Admin/support roles:
- Permissions/entitlements assumptions:
3) Key flows (happy path + edge cases)
- Flow A:
- Flow B:
- What can go wrong (timeouts, missing data, retries, cancellations)?
4) Data (source of truth)
- Core entities (with examples):
- Relationships (1:N, N:N):
- Data lifecycle (create/update/delete/audit):
- Integrations/data imports (if any):
5) Constraints & preferences
- Must use / cannot use:
- Budget/time constraints:
- Deployment environment:
6) Non-functional requirements (NFRs)
- Performance: target latency/throughput, peak load assumptions
- Uptime: SLA/SLO, maintenance windows
- Privacy/security: PII fields, retention, encryption, access logs
- Compliance: (if relevant)
7) Risks & open questions
- Known unknowns:
- Decisions needed from stakeholders:
8) Acceptance criteria + Definition of Done
- AC: Given/When/Then statements
- DoD: tests, monitoring, docs, migrations, rollout plan
9) References
- Link existing internal pages: /docs/<...>, /pricing, /blog/<...>
まず1–4を埋めてください。コアエンティティとソース・オブ・トゥルースを命名できないなら、設計はしばしば“APIが返すもの”に流れてしまい、後でマイグレーションと所有権の不明瞭さを招きます。
NFRでは「速い」「安全」といった曖昧な言葉を避け、数値や閾値、明示的なデータ処理ルールに置き換えてください。ざっくりでも(例:「p95 読み取り \u003c 300ms、200 RPS」)ある方が何も書かないより有益です。
受け入れ基準には少なくとも一つの負ケース(無効入力、権限拒否)と一つの運用ケース(障害の可視化)を含めてください。これにより設計は図ではなく現実の振る舞いに基づきます。
プロンプトの明確さは、断片コードだけでなくエンドツーエンドでAIを使う場合にさらに重要になります。vibe-codingのワークフロー(プロンプトが要件・設計・実装を駆動する)では、小さな曖昧さがスキーマ選択やAPI契約、UI挙動に伝播します。
Koder.aiは構造化されたプロンプトをチャットで反復し、Planning Modeで前提と未解決事項を明示してからコード生成を開始できる設計です。React(Web) / Go + PostgreSQL(バックエンド) / Flutter(モバイル)といったスタックで動く実装を出荷でき、スナップショットとロールバックで要件変更の実験を安全に行えます。ソースコードのエクスポート機能はチームの所有権を保つのに役立ちます。
チームとプロンプトを共有する際は、上のテンプレートを生きた仕様として扱い、アプリと一緒にバージョン管理すると境界が整い、破壊的変更が減ります。
プロンプトが「読みやすい」からといって完成とは限りません。二人の別々の人物が同じプロンプトから同じ設計をする状態が完成です。軽量なレビューで曖昧さを早期に見つけ、アーキテクチャの手戻りを減らします。
誰か(PM、エンジニア、またはAI)にプロンプトを「目標、非目標、入力/出力、制約」として言い直してもらってください。その読み返しと意図が一致しないなら、そのズレは明示されていない要件です。
構築前に「設計を変える未知」を列挙してください。例:
未解決事項を短い“Open questions”セクションとしてプロンプトに書き入れてください。
前提は問題ではありませんが、可視化されている必要があります。各前提について次のどれかにしてください:
一度に巨大なプロンプトを作らず、境界→データモデル→API契約の2–3回の短いイテレーションで進めてください。各パスは曖昧さを減らすことに集中し、スコープを増やさないでください。
優秀なチームでも小さな繰り返しで明確さを失います。多くの問題はコードを書く前に簡単に見つけて直せます。
曖昧な動詞は設計判断を隠します。「support」「handle」「optimize」「make it easy」のような語は成功の定義を教えてくれません。
アクター未定義は所有権のギャップを生みます。「システムがユーザーに通知する」はどのシステムコンポーネントか、どのユーザータイプか、どのチャネルかを問われます。
制約欠如は偶発的なアーキテクチャにつながります。スケール、レイテンシ、プライバシー、監査、デプロイ境界を指定しないと実装が推測に頼ります。
よくある罠はツールや内部実装を指定しすぎることです(「マイクロサービスを使う」「MongoDBに保存」「イベントソーシングを使う」)。目的を示してください(例:独立したデプロイ、柔軟なスキーマ、監査トレイル)と、そのための測定可能要件を書く方が良いです。
例:"Use Kafka"ではなく、"Events must be durable for 7 days and replayable to rebuild projections."のように書く。
矛盾は「リアルタイム必須」かつ「バッチでよい」のように発生します。優先順位を付け(must/should/could)受け入れ基準で両立しないものを排除してください。
アンチパターン: “オンボーディングを簡単にする。” 修正: “新規ユーザーは \u003c3 分でオンボーディング完了;最大6項目;保存再開をサポート。”
アンチパターン: “管理者はアカウントを管理できる。” 修正: アクションを定義する(サスペンド、MFAリセット、プラン変更)と権限・監査ログを定義。
アンチパターン: “高性能を保証する。” 修正: “P95 API レイテンシ \u003c300ms、200 RPS 時;レート制限時は優雅に低下する。”
アンチパターン: 用語の混在(“customer”, “user”, “account”)。 修正: 小さな用語集を追加し、一貫して使う。
明確なプロンプトはアシスタントに“理解させる”以上の効果があります。推測を減らし、システム境界の明確化、データモデルの驚きの削減、進化しやすいAPIにつながります。曖昧さは未計画のマイグレーション、実際のワークフローと合わないエンドポイント、繰り返し発生する保守タスクという形で報われます。
より実践的なパターンは /blog や /docs のガイドを参照してください。
プロンプトの明確さとは、解釈の余地を最小化して欲しいことを伝えることです。実務的には、以下を文書化することを指します:
これにより「意図」が設計・実装・テスト可能な要件に変わります。
不明確なプロンプトは、設計者(人間やAI)が勝手に前提を補うことを促し、その前提は役割ごとに一致しないことが多いです。結果として現れるコストは:
明確にすることで、異議や不一致が早期に可視化され、修正コストが下がります。
アーキテクチャの決定は経路依存的です:初期の解釈がサービス境界やデータフロー、ルールの居場所として固定化されます。プロンプトが責任範囲(例:課金、エンタイトルメント、顧客ステータス)を指定しないと、後で変更しにくい“全部入り”モジュールができてしまいます。
明確なプロンプトは所有権を明示し、偶発的な境界を避けるのに役立ちます。
設計空間を収束させるために、目標・非目標・制約を明示してください。例:
このような具体的記述が「どの方式を採るか」の曖昧さを消します。
ほとんどの横断的要件は設計のあらゆる箇所に影響するので、常に明示してください:
これらを指定しないと、実装がばらばらになります。
「customer」「account」「user」といった曖昧な名詞を明確に定義してください。定義がないとスキーマはnullable列や汎用フィールド(status、type、metadata)に依存するようになります。
良いプロンプトは:
これらがデータモデルを健全に保ちます。
現実運用でよく壊れる部分を事前に指定してください:
これらがキーや制約、監査要件を決めます。
契約を具体化することでクライアント側の誤用を防ぎ、破壊的変更を避けられます。指定例:
PUT(全置換)か PATCH(部分更新)かサンプルのリクエスト/レスポンスを含めると誤解が減ります。
オペラビリティを含めてDoD(Definition of Done)に入れてください。明示すべき項目:
指定がないと本番での問題発見が遅れ、診断コストが増えます。
短いレビューサイクルで曖昧さを表に出してください:
構造化されたプロセスがあれば、実装前にギャップを埋められます(参考:/blog/review-workflow-catch-gaps-before-building)。